先日、福井県の企業2社へベンチマークに行ってきました。
訪問したのは、清川メッキ工業株式会社と福井経編興業株式会社です。
どちらも高い技術力を持つ企業ですが、印象に残ったのは技術そのものではありませんでした。
「人をどう育てるのか」
「人が働き続けたいと思える会社をどうつくるのか」
「会社として新しいことにどう挑戦していくのか」
普段、人材育成に関わる仕事をしている私にとって、多くの気づきをいただいた一日となりました。
人材定着は、制度だけでは実現しない
1社目は、清川メッキ工業株式会社です。
こちらの会社は第16回日本でいちばん大切にしたい会社大賞を受賞しています。
今回は人材の定着を中心にお話を伺いました。
特に印象に残ったのは、人材定着についてさまざまな仕組みをつくり、実践し、そして改善を繰り返していることです。
「この制度を導入すれば、人が辞めなくなる」そんな単純な話ではありません。
実際に制度をつくってみる。
運用してみる。
うまくいかなければ見直す。
経営者として社員と向き合いながら、試行錯誤を続けていることが伝わってきました。
完成された制度を見せていただいたというよりも、より良い会社にしていくために、今も考え続け、改善し続けている。
姿勢そのものが、とても印象的でした。
従業員一人ひとりが「自分の言葉」で話していた
さらに印象に残ったのが、現場見学です。
工場を案内してくださった従業員の皆さんが、メッキの工程について丁寧に説明してくださいました。
会社の人材育成に関する目標についても、それぞれが自分の言葉で話してくださったのです。
これは、簡単なことではないと思います。
会社に立派な経営理念や人材育成方針が掲げてあったとしても、そこで働く人が自分の言葉で説明できなければ、それは「会社が決めた言葉」のままです。
一方で、一人ひとりが自分の言葉で話せるということは、それだけ日々の仕事の中に考え方が浸透しているということではないでしょうか。
人材育成に携わっていると、どうしても「制度」や「研修」といった仕組みに目が向きがちです。
もちろん、仕組みは大切です。
しかし、仕組みだけをつくっても、人は育たない。
制度があり、それを支える風土があり、さらに現場で働く一人ひとりがその意味を理解している。制度を強化しすぎたと感じたら風土へ戻す。
今回の見学を通じて、あらためて「制度と風土の両方が必要なのだ」と感じました。
「衣料から医療へ」――福井経編興業の挑戦
2社目は、福井経編興業株式会社です。
こちらの会社は第10回「ものづくり日本大賞」で最高賞の内閣総理大臣賞を受賞しており、『下町ロケット』でモデルとなった企業です。
今回お話の中で印象に残ったのが、「臆することなくチャンスをつかむこと」
という言葉です。
福井経編興業さんは、衣料分野で培ってきた「編む」という技術を、医療分野へと展開してきました。
「衣料から医療へ」。
言葉にすると短いですが、これまでとは異なる分野へ進出することは、決して簡単なことではないはずです。
それでも、自社が培ってきた技術の可能性を信じ、目の前に現れたチャンスを逃さずに挑戦していく。
その姿勢が、現在の事業につながっているのだと感じました。
そして、もう一つ心に残ったのが、
「社長は、社員とその家族の人生を背負っている」というお話です。
経営者が新しいことに挑戦するというと、思い切った決断や大胆さに目が向きがちです。
しかし、その決断の向こう側には、社員がいます。
そして、その社員を支える家族がいます。
だからこそ、ただ勢いだけで挑戦するのではない。
会社を存続させ、働く人たちの生活を守りながら、その先の未来をつくっていく。
チャンスをつかむ大胆さと、社員とその家族の人生を預かる責任。
その両方を持つことが、経営者なのだと感じました。
「地域全体の幸せ」
今回、2社のお話を伺っていて、強く印象に残った共通点があります。
それは、どちらの経営者も、会社の中だけを見ていなかったことです。
目指しているのは、地域全体が幸せになること。
ただし、そのためにはまず、社員と、その家族が幸せであること。
会社が利益を上げることも大切です。
事業を成長させることも大切です。
けれども、その会社で働く人が幸せでなければ、その先にある地域の幸せにはつながっていかない。
社員が安心して働き、その家族も安心して暮らせる。
その会社が地域に根づき、雇用を生み、取引先や地域社会にも良い影響を与えていく。
そう考えると、会社経営は会社の中だけで完結するものではないのだと思います。
「社員を大切にする」という言葉はよく聞きます。
しかし今回の2社は、それを福利厚生や制度だけで捉えているのではなく、
社員とその家族、そして地域まで含めて幸せを考えている。
その姿勢が、とても印象に残りました。
ベンチマークは「真似をするため」に行くのではない
今回2社を訪問して、改めて感じたことがあります。
ベンチマークは、成功している会社の制度や取り組みをそのまま真似するために行くものではない、ということです。
社員が定着しているから、この制度を導入しよう。
新しい事業に成功しているから、同じことをやってみよう。
それだけでは、おそらくうまくいきません。
大切なのは、その取り組みの背景にある考え方や姿勢を見ること。
清川メッキ工業さんからは、人を大切にしながら、制度と風土の両面から組織をつくり、改善を続けていく姿勢を学びました。
福井経編興業さんからは、自社の技術の可能性を限定せず、チャンスに臆することなく挑戦すること。そして、その挑戦の裏側には、社員とその家族の人生を背負うという経営者としての責任があることを学びました。
さらに、2社に共通していたのは、
まず社員とその家族が幸せになること。
その先に、地域全体の幸せがある。
という考え方です。
良い会社には「完成形」があるわけではないのかもしれません。
人も、組織も、事業も変わっていく。
だからこそ、考え、実践し、振り返り、また改善する。
今回のベンチマークは、私自身も普段関わっている人材育成について、
「制度をつくることが目的になっていないか」
「研修をすることが目的になっていないか」
「その先に、どんな会社、どんな地域をつくりたいのか」
を改めて考える機会になりました。
「いい会社だった」で終わらせず、自分たちの仕事にどう生かしていくか。
私にとってこれからの支援の姿勢を考えさせられる一日でした。
国家資格キャリアコンサルタント上島美和
清川メッキ工業株式会社
福井県にあるめっき加工企業。電子部品、半導体ウエハ、医療機器、自動車部品などの各種材料に対する電解・無電解めっき加工をおこなっている。ナノめっき技術が強み。第16回日本でいちばん大切にしたい会社大賞 内閣総理大臣表彰受賞。
福井経編興業株式会社
福井県にある経編(たてあみ)生地の製造企業。近年、医療材料の開発(人工血管、心臓修復パッチ等)し注目を集める。池井戸潤氏の小説『下町ロケット2 ガウディ計画』に登場する医療用パッチのモデル企業のひとつ。第10回モノづくり日本大賞 内閣総理大臣賞受賞。