地方の中小企業こそ、短時間正社員制度を“戦略”として導入すべき理由
地方の中小企業にとって、「採用できない」「定着しない」は深刻な経営課題です。求人を出しても応募が来ない。せっかく育てた人材が、ライフイベントをきっかけに辞めてしまう。その裏側には、法定の短時間勤務制度だけでは復帰後の働き方が支えられていないという構造的な問題があります。
1.短時間勤務制度(法定)は「利用率は高いが、限界も大きい」
厚生労働省のデータによると、
育児短時間勤務制度の利用率は
- 女性:75.4%
- 男性:3.4%
と、特に女性の利用は非常に高い数字です。つまり、育児期に“6時間勤務で復帰する”という流れはすでに多くの企業で一般化していると言えます。
しかし問題は その後 です。
2.子が3歳〜小学校低学年で離職が最も多い― 法定制度が終わった瞬間、働き方が急に変わる
各種調査では、離職のピークは「子どもが3歳〜小学校低学年」 と言われています。
これはまさに、法定の短時間勤務制度(6時間)が終わる時期 と重なります。
復帰後の働き方は6時間 → 8時間という“2時間の段差”
✔ この「6h→8hのギャップ」が離職を生みやすい大きな要因です。
- 生活のペースが追いつかない
- 家事・通院・学校行事が重なる
- 本人と子どもの体力・メンタル面も整わない
- 会社側も急な業務量変更に対応できない
せっかく復帰したのに、「続けられない」という理由だけで離職する現実があります。
3.しかも地方ではさらに深刻
「働けない → 離職 → パート転換 → 職種まで変える」という構造
地方では都市部のように柔軟な働き方の選択肢が少ないため、
時間制約が出た瞬間に次のような流れが起きています。
働けない
→ 離職
→ 正社員を諦めてパートへ
→ パートで働くために“職種まで変える”
これは本人にとっても企業にとっても、地域にとっても大きな損失です。
本来残るべき人材が、
制度がないだけでキャリアを断ち切られているのが現実です。
4.そこで必要なのが企業独自の「短時間正社員制度」
― 継続雇用と戦力維持のための“戦略的な制度”
短時間正社員制度は、
企業が自由に設計できる継続雇用の仕組み です。
- 1日6〜7時間など勤務時間を柔軟に設定
- 週の勤務日数や曜日も調整できる
- 給与は時間比例
- 評価・役割は“正社員として”維持(企業で設定できる)
- 育児・介護・持病にも対応可能
法定制度の不足部分を埋め、
“続けられる働き方” をつくる制度です。
5.最も効果が出るのは「6 → 7 → 8時間」のステップ設計
― 法定6h + 独自7h + 通常8h の3段階
私が地方企業におすすめしたいのは次の「段階的復帰モデル」です。
ステップ1:短時間勤務制度(法定・6h)
まずは職場に戻るための最低限の安全網。
ステップ2:短時間正社員(企業独自・7h)
1時間のプラスが、復帰を安定させます。
- 子どもの生活リズムが安定
- 本人の体力・メンタルが回復
- 保育園の延長対応がスムーズ
- 会社も業務量・責任範囲を段階的に調整できる
この助走ステップが“離職の谷間”を埋める鍵です。
ステップ3:フルタイム(8h)
ステップ2があることで、自然に移行できます。
6.地方の中小企業こそ、この制度が“採用力”につながる
地方は以下の特徴を持っています。
- 求職者の母集団が少ない
- 地域活動が多い
- フルタイム前提の求人は応募が集まりにくい
つまり、
「辞めない仕組み」は、地方企業にとって“採用戦略そのもの”になります。
7.制度を形骸化させないための3つの条件
短時間正社員制度を“戦略”として機能させるには、
以下の3点セットが必須です。
① 戦力確保・定着施策として制度設計する
優秀な人材を守ることこそ最大の投資です。
② 評価制度・育成制度を中長期で整える
短時間でも責任ある仕事を任せられる設計に。
③ 社内文化・マネジメントを変える
- 時間だけでなく成果で評価
- 属人化の解消
- 管理職教育と風土づくり
が欠かせません。
結論
- 法定の短時間勤務制度は「戻るための最低限」
- 継続して働くための「企業独自の短時間正社員」により子3歳〜小学校低学年の離職増加を防ぐ
- 6→7→8h のステップ設計で離職は大きく減る
- 地方は「辞めない=最大の採用戦略」
- 制度×評価×社内文化で“人が辞めない会社”をつくる
短時間勤務制度と短時間正社員制度は、
地方の採用難を解決する「戦略的な人材確保策」 です。
令和7年度 石川県 労働条件等実態調査について(石川県ホームページ)
キャリアコンサルタント上島美和